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浦和地方裁判所 昭和53年(行ウ)10号 判決

埼玉県秩父市上町一丁目一九番一〇号

原告

加茂下喜之

右訴訟代理人弁護士

市川幸永

箕輪勝彦

網野猛美

埼玉県秩父市日野田町一丁目二番四二号

被告

秩父税務署長

関川重作

右指定代理人

石井宏治

佐々木正男

岩田栄一

中島重幸

藤田亘

江口育夫

阿南一徳

右当事者間の昭和五三年(行ウ)第一〇号所得税更正処分等取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり、判決する。

主文

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五二年三月二日付でなした原告の昭和四八年分及び同四九年分の各所得税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分は、いずれもこれを取消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

(一)  原告は、秩父市において納豆及びめん類の製造販売業を営むものであるが、被告に対し昭和四八年分の所得税につき、総所得金額を金一三五万円、所得税額を金四万八、八〇〇円、同四九年分の所得税につき、総所得金額を金二一九万二、八二九円、所得税額を金一二万八、一〇〇円とする確定申告書をそれぞれ提出したところ、被告は別表一、二の各(二)欄記載のとおり、原告に対し更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、以上を総称して本件各処分という。)をした。原告は、これらに対して異議申立をしたが棄却されたので、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、本件各処分の一部を取消し、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をしたが、これらの詳細は、別表一、二記載のとおりであって、右裁決の結果は、昭和五三年五月二六日、原告に通知された。

(二)  しかしながら、本件各処分は、原告の所得金額を推計してなされたものであるが、本件においては、推計の必要性がなく、かつ推計の方法が合理性を欠くものであるのみならず、原告の所得を過大に認定したものであって、違法である。

(三)  よって、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

(一)  請求原因(一)の事実を認める。

(二)  同(二)を争う。

三  抗弁並びに被告の主張

(一)  推計の必要性

原告はいわゆる白色申告者であるが、被告は、被告所部の係官(以下、被告係官又は単に係官という。)に、原告の本件係争各年分の所得税に関する調査をさせたところ、右係官は、昭和五〇年一一月一四日から同五一年一月一三日までの間八回にわたり、原告方に臨場し原告に対して質問するなどして調査を試みたが、その際民主商工会(以下、民商という。)会員がテープレコーダーを持ち込み、原告自ら民商会員の立会いを要求し、その立会いを認めなければ調査に応じないとの態度を示して調査を妨害したり、或いは多忙を理由にするなどして、被告係官の調査に対して非協力的な態度を取り続けたため、原告の所得金額を実額で算出する資料を得ることができず、また、原告は売上帳等申告の基になる帳簿を作成していないと思われたので、被告は、調査によって判明した原告の仕入数量等を基礎として、推計により原告の所得金額を更正した。

(二)  原告の総所得金額の算定根拠

1 同業者率による推計

(昭和四八年分)

原告の昭和四八年の所得金額は金三七五万九、三二八円であり、その算定方法は別表三(一)のとおりである。更に、これを敷衍して説明を加える。

(1) 売上金額 金一、三二七万六、七四〇円

ア 納豆製造販売関係(以下、納豆部門という。)の売上金額金七九一万四、五三二円

納豆の主要原材料である大豆の当年分における仕入金額金二二八万七、三〇〇円を、後記同業者の大豆仕入金額の売上金額に対する平均割合(以下、平均大豆仕入金額率という。)二八・九〇パーセントで除して算出した。

(ア) 大豆仕入金額 金二二八万七、三〇〇円

原告の仕入先である有限会社本井新太郎商店からの仕入数量、仕入金額は別表四(一)のとおりであった。

(イ) 平均大豆仕入金額率 二八・九〇パーセント

同業者の平均大豆仕入金額率二八・九〇パーセントの算出方法は、次のとおりである。

a 基礎係数の抽出

原告の住所地(秩父市)を管轄する秩父税務署、同税務署管轄区域に近接する川越、所沢、東松山、熊谷、本庄及び行田の各税務署管内において、納豆製造卸売業を専業として営む個人事業者で、次の条件に該当する者を基礎資料として選定した。

(a) 昭和四八年中において、暦年納豆製造卸売業を営む者で、年の中途において開廃業、転業及び業態の変更のない者。

(b) 青色申告者であって、税務署長から受けた更正又は決定処分に対する不服申立期間及び出訴期間を経過していない者、並びに当該処分に対して不服申立を行ない、現在審理中の者又は訴訟係属中でない者。

右条件に該当する同業者は六名であり、その基礎資料による係数(以下、基礎係数という。)は、別表五(一)1の〈1〉ないし〈3〉欄記載のとおりである。

b 基礎係数の平均値を求める計算

aにより抽出した基礎係数から適正な平均値を求めるために、統計学上一般に用いられている手法を導入して異常値を除外して平均値を求めた。その計算は、別表五(一)1ないし3のとおりである。

イ めん製造販売関係(以下、めん部門という。)の売上金額金五三六万二、二〇八円

めんの主要原材料である小麦粉及びそば粉の当年中における仕入金額金一七三万五、八二〇円から、小麦粉の通常以上の仕入金額(小麦粉の値上げ発表のため、一〇月から一二月にかけて先買いしたもの。以下、先買金額という。)金二二万〇、四六〇円を控除した調整後の仕入金額金一五一万五、三六〇円を後記同業者の主要原材料仕入金額(先買金額控除後)の売上金額に対する平均割合(以下、調整後の平均仕入金額率という。)二八・二六パーセントで除して算出した。

(ア) 調整後の仕入金額 金一五一万五、三六〇円

右金額は、以下に述べるaの金額からbの金額を控除した金額である。

a 小麦粉及びそば粉の仕入金額 金一七三万五、八二〇円

原告の小麦粉の仕入先である株式会社森田商店と、そば粉の仕入先である株式会社武蔵屋からの仕入数量、仕入金額は、別表八(一)のとおりであった。

b 小麦粉の先買金額 金二二万〇、四六〇円

小麦粉の先買数量一四九袋に、種類別の構成割合と最終仕入単価をそれぞれ乗じて計算した種類別の先買金額の合計金額である。右の計算内容は、別表九のとおりである。

(イ) 同業者の調整後の平均仕入金額率 二八・二六パーセント

その算出方法は、納豆部門の大豆仕入金額率と同様の方法によった(なお、原告は乾めんを製造していないので、同業者の選定にあたっては、乾めんを製造している者を除いた。)。抽出した同業者は三名で、その基礎係数及び平均値の計算は別表一一(一)1ないし3のとおりである。また、同業者の昭和四八年分の小麦粉の仕入金額から先買金額を減算した調整仕入金額の計算内容は、別表一〇(一)のとおりである。

(2) 算出所得金額 金五三八万八、五九九円

ア 納豆部門算出所得金額 金三三五万四、一七八円

納豆部門の売上金額金七九一万四、五三二円に、同業者の平均算出所得率四二・三八パーセントを乗じて算出した。

なお、平均算出所得率四二・三八パーセントの算出方法は、前記平均大豆仕入金額率を算出した場合と、同一の同業者の算出所得率を基礎係数として、同一の方法により算出した。その計算内容は、別表一二(一)1ないし3のとおりである。

イ めん部門算出所得金額 金二〇三万四、四二一円

めん部門の売上金額金五三六万二、二〇八円に、同業者の平均算出所得率三七・九四パーセントを乗じて算出した。

なお、平均算出所得率三七・九四パーセントの算出方法は、前記めん部門平均仕入金額率を算出した場合と同一の同業者の算出所得率を基礎係数として、同一の方法により算出した。その計算内容は、別表一三(一)1ないし3のとおりである。

(3) 特別経費 金一二四万四、二七一円

ア 納豆部門雇人費 金四四万九、五四五円

納豆部門売上金額金七九一万四、五三二円に、同業者の平均雇人費率五・六八パーセントを乗じて算出した。

なお、平均雇人費率五・六八パーセントの算出方法は、前記平均大豆仕入金額率を算出した場合と同一の同業者(雇人のない者を除く)雇人費率を基礎係数として、同一の方法により算出した。その計算内容は別表一四(一)1ないし3のとおりである。

イ めん部門雇人費 金四一万〇、二〇八円

めん部門売上金額金五三六万二、二〇八円に同業者の平均雇人費率七・六五パーセントを乗じて算出した。

なお、平均雇人費率七・六五パーセントの算出方法は、前記めん部門平均仕入金額率を算出した場合と同一の同業者(雇人のない者を除く)の雇人費率を基礎係数として、同一の方法により算出した。その計算内容は、別表一五(一)1ないし3のとおりである。

ウ 支払地代 金一万五、〇〇〇円

原告は、その所有する倉庫の敷地の地代として、小池誠一に右金員を支払っていた。

エ 建物減価償却費 金六万五、八八二円

原告は、昭和四七年一〇月、鉄骨モルタル造りのうどん工場を金一三三万〇、九五〇円で取得したが、右工場の昭和四八年分の減価償却費は、金六万五、八八二円である。その計算内容は、別表一六(一)のとおりである。

オ 外注加工費 金五万円

原告は、昭和四八年中に、訴外庄子銀助に納豆加工を委託し、外注加工費として金五万円を支払った。

カ 支払利息 金二五万三、六三六円

原告は、昭和四八年中に、借入金の利息として、別表一七(一)のとおり金二五万三、六三六円を支払った。

(4) 事業専従者控除額 金三八万五、〇〇〇円

(5) 事業所得金額 金三七五万九、三二八円

事業所得金額は、算出所得金額金五三八万八、五九九円から特別経費金一二四万四、二七一円及び事業専従者控除額金三八万五、〇〇〇円を控除した金三七五万九、三二八円である。

(昭和四九年分)

原告の昭和四九年の所得金額は金五〇八万四、二六七円で、その算定方法は、別表三(二)のとおりである。更に、これを敷衍して説明を加える。

(1) 売上金額 金一、六九一万四、五二一円

ア 納豆部門売上金額 金一、〇七八万八、〇五九円

(ア) 製造製品売上金額 金一、〇六七万四、二五九円

昭和四八年分と同様の方法により、昭和四九年中の大豆の仕入金額金二三四万三、〇〇〇円を、同業者の平均大豆仕入金額率二一・九五パーセントで除して算出した。

a 大豆仕入金額 金二三四万三、〇〇〇円

有限会社本井新太郎商店からの仕入数量、仕入金額は、別表四(二)のとおりであった。

b 平均大豆仕入金額率 二一・九五パーセント

同業者の平均大豆仕入金額率二一・九五パーセントの算出方法は、昭和四八年分と同様である。また、抽出した同業者は五名であり、その基礎係数及び平均値の計算は、別表五(二)1ないし3のとおりである。

(イ) 仕入製品売上金額 金一一万三、八〇〇円

完成品の納豆の仕入数量四、〇〇〇個に、販売単価二八・四五円を乗じて算出した。

a 完成品納豆の仕入数量 四、〇〇〇個

原告は、昭和四九年九月に、株式会社富岡食品から、完成品の納豆四、〇〇〇個を仕入れた。

右納豆の仕入年月日、仕入数量及び仕入金額は、別表六のとおりである。

b 販売単価 二八・四五円

販売単価二八・四五円は、原告の有限会社横川商店への昭和四九年中の納豆一個当たりの平均販売単価であり、その算出方法は、別表七のとおりである。

なお、販売単価を右有限会社横川商店売上分から採ったのは、販売単価が他の販売先へのそれより低廉であるので、原告にとって計算上有利であるからである。

イ めん部門売上金額 金六一二万六、四六二円

小麦粉及びそば粉の昭和四九年中における仕入金額金一六四万三、二一〇円に、前年の先買金額金二二万〇、四六〇円を加算した調整後の仕入金額金一八六万三、六七〇円を同業者の調整後の平均仕入金額率三〇・四二パーセントで除して算出した。

(ア) 小麦粉及びそば粉の仕入金額 金一六四万三、二一〇円

原告の、昭和四九年中における小麦粉及びそば粉の仕入数量仕入金額は、別表八(二)のとおりであった。

(イ) 同業者の調整後の平均仕入金額率 三〇・四二パーセント

算出方法は、昭和四八年分と同様の方法によった。抽出した同業者は三名で、その基礎係数及び平均値の計算は別表一一(二)1ないし3のとおりである。また、同業者の昭和四九年分の小麦粉の仕入金額に前年の先買金額を加算した調整後の仕入金額の計算内容は、別表一〇(二)のとおりである。

(2) 算出所得金額 金七〇二万五、三三八円

ア 納豆部門算出所得金額 金四八七万一、八八七円

納豆部門の売上金額金一、〇七八万八、〇五九円に、同業者の平均算出所得率四五・一六パーセントを乗じて算出した。

なお、平均算出所得率四五・一六パーセントの算出方法は、昭和四八年分と同一の方法により算出した。その計算内容は、別表一二(二)1ないし3のとおりである。

イ めん部門算出所得金額 金二一五万三、四五一円

めん部門の売上金額金六一二万六、四六二円に同業者の平均算出所得率三五・一五パーセントを乗じて算出した。

なお、平均算出所得率三五・一五パーセントの算出方法は、昭和四八年分と同様の方法によった。その計算内容は、別表一三(二)1ないし3のとおりである。

(3) 特別経費 金一三九万一、〇七一円

ア 納豆部門雇人費 金五三万四、〇〇八円

納豆部門売上金額金一、〇七八万八、〇五九円に同業者の平均雇人費率四・九五パーセントを乗じて算出した。

なお、平均雇人費率四・九五パーセントの算出方法は、昭和四八年分と同様の方法によった。その計算内容は、別表一四(二)1ないし3のとおりである。

イ めん部門雇人費 金四九万二、五六七円

めん部門売上金額金六一二万六、四六二円に同業者の平均雇人費率八・〇四パーセントを乗じて算出した。

ウ 支払地代 金一万五、〇〇〇円

昭和四八年分と同じく、倉庫敷地の地代である。

エ 建物減価償却費 金九万四、二七〇円

原告が、昭和四七年一〇月に取得した鉄骨モルタル造りのうどん工場と、同四九年一〇月に取得した鉄骨モルタル造りの納豆工場についての昭和四九年の減価償却費は、金九万四、二七〇円である。その計算内容は、別表一六(二)のとおりである。

オ 支払利息 金二五万五、二二六円

原告は、昭和四九年中に、借入金の利息として、別表一七(二)のとおり金二五万五、二二六円を支払った。

(4) 事業専従者控除額 金五五万円

(5) 事業所得金額 金五〇八万四、二六七円

事業所得金額は、算出所得金額金七〇二万五、三三八円から特別経費金一三九万一、〇七一円及び事業専従者控除額金五五万円を控除した金五〇八万四、二六七円である。

2 資産負債増減法による推計

(昭和四八年分)

原告の昭和四八年分の所得金額は金四四四万八、六一〇円であって、その算定方法は、別表一八(一)、(二)のとおりである。

(1) 純資産増加額 金二三八万三、〇七〇円

昭和四八年末の純資産(預金と減価償却資産の和から借入金を減算したもの。)と昭和四七年末の純資産との差額である。各年末の預金額、減価償却資産額、借入金額はそれぞれ別表一九(一)、(二)、別表二〇の各該当欄記載のとおりである。

(2) 消費支出 金二〇六万五、五四〇円

原告の消費支出は、一世帯当たり一か月の全国平均消費支出金一一万二、一一六円を世帯人員三・九一人で除して、一人当たりの消費支出額を求め、これを原告方世帯人員に乗じて一年当たりの消費支出を推計した。その算式は別表一八(注)(1)のとおりである。

なお、原告方の世帯人員は、一一月までは五名、一二月は六名であった。

(昭和四九年分)

原告の昭和四九年分の所得金額は、金八四九万九、〇六五円で、その算定方法は、別表一八(一)、(二)のとおりである。

(1) 純資産増加額 金五九八万七、八五三円

昭和四九年末の純資産と同四八年末の純資産との差である。各年末の預金額、減価償却資産額、借入金額はそれぞれ別表一九(一)、(二)、別表二〇の各該当欄記載のとおりである。

(2) 消費支出 金二五一万一、二一二円

昭和四八年分と同様の方法により推計した。その算式は別表一八(二)(注)(2)のとおりである。

なお、一世帯当たり一か月の全国平均消費支出は、金一三万六、〇二四円、世帯人員は三・九〇人で、原告方の世帯人員は六人であった。

3 以上に述べたとおり、原告の本件係争各年分の総所得金額は、同業者率によった場合、昭和四八年分は金三七五万九、三二八円、同四九年分は金五〇八万四、二六七円であり、資産負債増減法によった場合には、同四八年分は金四四四万八、六一〇円、同四九年分は金八四九万九、〇六五円であるから、いずれの方法によるにせよ右各金額の範囲内でなされた本件各処分には、何んらの非違もない。

(三)  本件各過少申告加算税賦課決定処分の根拠

被告は、原告に対し、国税通則法第六五条第一項により、原告が、本件各更正処分により更に納付すべき各所得税額(金一、〇〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の五を乗じて得た額(金一〇〇円未満切捨て)を本件係争各年分の過少申告加算税として賦課決定したのである。

四  抗弁に対する原告の認否

(一)  抗弁(一)の事実のうち、原告が白色申告者であり、被告係官が昭和五〇年一一月一日から同五一年一月一三日までの間八回にわたり、原告方を調査のために訪れ原告に対して質問したこと、調査の際、原告が民商会員の立会いを要求し、民商会員がテープレコーダーを持ち込んだことがあったこと、原告が多忙を理由として調査に応じなかったことがあったことを認めるが、その余の事実を否認する。

被告係官は、何んらの連絡もなしに原告方の最も多忙な時間帯である午前八時四〇分ころを狙って臨店するので、原告は、調査に応じる余裕がなかったが、事前の連絡があり、かつ、テープレコーダーによる録音及び民商会員の立会いの要求が容れられたなら、実額計算を可能にする書類を用意し、調査に応じるつもりであった。ところが、被告係官は、原告の録音及び第三者の立会いの要求を、それが何んら調査の妨げになるものではないにも拘わらず、不当に拒否したため、原告は調査に応じられず、従って調査が進展しなかったものであるから、被告自ら調査を放棄したものといわざるをえない。

(二)  抗弁(二)について

1 同(二)1の事実について

(1) 昭和四八年分の事実のうち、(3)ウ、(3)オ、及び(4)の事実を認め、その余の事実を否認する。

(2) 昭和四九年分の事実のうち、(3)ウ、(3)オ、及び(4)の事実を認め、その余の事実を否認する。

(3) 原告がめん製造を開始したのは昭和四七年一〇月であって、本件係争各年度においては、経験不足のための製造ミス、返品等が相次ぎ、経験を有する同業者と同視することはできない状態にあったから、被告の主張する同業者率による推計は合理性がない。

2 抗弁(二)2の事実を否認する。

被告は、加茂下喜市(以下、喜市という。)、同みどり(以下、みどりという。)名義の預金を原告の営業による所得であることを前提とするが、これらは、もともと同人ら固有の財産であって、原告の営業による所得ではない。

また、原告の家族のうち、一人は八〇才を超え、一人は八〇才弱の高令の老人であり、全国平均消費支出で原告の家族の消費支出を推計するのは、合理的でない。

(三)  抗弁(三)を争う。

五  原告の主張

(一)  昭和四八年分の原告の所得は金一一一万三、九一六円で、その内容は、次のとおりである。

1 売上金額 金一、一三八万一、二五一円

2 仕入金額 金五八〇万三、七五〇円

内訳

(1) 小麦粉 金一五九万二、五七〇円

(2) そば粉 金八万五、三〇〇円

(3) 納豆菌 金三万五、六〇〇円

(4) からし 金二二万〇、〇五〇円

(5) ビニール袋 金四五万三、一二〇円

(6) 大豆 金二二〇万二、五一〇円

(7) 納豆容器 金一一〇万五、〇四〇円

(8) その他 金一〇万〇、五六〇円

3 その他の経費 金四〇七万八、五八五円

内訳

(1) 水道光熱費 金二〇万八、四七八円

次のアないしウの水道光熱費金二三万一、六四三円に営業用割合九〇パーセントを乗じたものである。

ア 水道料金 金四万一、〇七〇円

イ プロパンガス代 金一二万五、九八〇円

ウ 電気料金 金六万四、五九三円

(2) 交通通信費 金五万九、八四五円

内訳

ア 電話料金 金二万八、三八五円

イ 交通費等 金三万一、四六〇円

(3) 広告宣伝費 金一五万〇、一五〇円

(4) 接待交際費 金一一万一、三九〇円

(5) 保険料 金五万四、八〇〇円

(6) 修理費 金三五万二、四九〇円

(7) 消耗品 金二七万〇、四二〇円

(8) 燃料費 金五一万九、四九五円

原告方の燃料費金五七万七、二一七円に営業用割合九〇パーセントを乗じたものである。

(9) 福利厚生費 金一一万〇、九〇〇円

(10) 諸会費 金三万八、〇〇〇円

(11) 外注加工費 金五万円

(12) 公租公課 金八万九、五五三円

(13) 荷造運賃費 金二万三、八〇〇円

(14) 減価償却費 金五五万六、四一三円

(15) 給料 金一二一万四、二〇五円

(16) 利子 金二五万三、六四六円

(17) 地代家賃 金一万五、〇〇〇円

4 従って昭和四八年分の所得は、売上金額金一、一三八万一、二五一円から仕入金額金五八〇万三、七五〇円、その他の経費金四〇七万八、五八五円及び事業専従者控除金三八万五、〇〇〇円を控除した金一一一万三、九一六円である。

(二)  昭和四九年分の原告の所得は、金二〇八万八、一五八円であって、その内容は、次のとおりである。

1 売上金額 金一、六五四万一、九二一円

2 仕入金額 金七五二万三、〇三〇円

内訳

(1) 小麦粉 金一四七万八、四六〇円

(2) そば粉 金八万〇、一〇〇円

(3) 納豆菌 金二万五、八五〇円

(4) からし 金二九万九、四五〇円

(5) ビニール袋 金八二万六、一四〇円

(6) 大豆 金二三一万八、一〇〇円

(7) 納豆容器 金二二四万八、四五〇円

(8) その他 金二四万六、四八〇円

3 その他の経費 金六三八万〇、七三三円

内訳

(1) 水道光熱費 金一三万七、七八一円

次のア及びイの水道光熱費金一五万三、〇九一円に営業用割合九〇パーセントを乗じたものである。

ア 水道料金 金四万五、九七〇円

イ 電気料金 金一〇万七、一二一円

(2) 交通通信費 金六万八、二五九円

ア 電話料金 金三万二、一五一円

イ 交通費等 金三万六、一〇八円

(3) 広告宣伝費 金八万五、五八〇円

(4) 接待交際費 金三六万五、二三〇円

(5) 保険料 金九万五、二九〇円

(6) 修理費 金一一二万六、四五〇円

(7) 消耗品費 金四九万二、二五〇円

(8) 燃料費 金八四万一、六八一円

原告方の燃料費金九三万五、二〇二円に営業用割合九〇パーセントを乗じたものである。

(9) 福利厚生費 金一六万二、四〇〇円

(10) 諸会費 金三万四、三〇〇円

(11) 外注加工費 金八万円

(12) 公租公課 金一七万四、八五八円

(13) 荷造運賃費 金三、四六〇円

(14) 減価償却費 金七七万六、一九三円

(15) 給料 金一六五万六、〇四〇円

(16) 利子 金二五万五、九六一円

(17) 地代家賃 金一万五、〇〇〇円

(18) 雑費 金一万円

4 従って、昭和四九年分の所得は、売上金額金一、六五四万一、九二一円から仕入金額金七五二万三、〇三〇円、その他の経費金六三八万〇、七三三円及び事業専従者控除金五五万円を控除した金二〇八万八、一五八円である。

第三証拠

一  原告

(一)  甲第一、第二号証、第三号証の一ないし五、第四号証の一ないし五八、第五号証の一ないし九、第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし四、第八号証の一ないし一三、第九号証の一ないし一六、第一〇号証の一ないし二九、第一一号証の一ないし一一、第一二号証の一ないし四、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし四、第一六、第一七号証、第一八号証の一、二、第一九ないし第二一号証、第二二号証の一ないし四、第二三号証の一、二、第二四号証の一ないし三五、第二五号証の一ないし四、第二六号証の一ないし七、第二七号証の一ないし三、第二八号証の一ないし三三、第二九号証の一ないし四三、第三〇号証の一ないし六、第三一号証の一ないし三五、第三二号証の一ないし一〇、第三三号証の一ないし一九、第三四号証、第三五号証の一ないし三、第三六号証の一、二、第三七号証、第三八号証の一ないし一三、第三九号証の一ないし八四、第四〇号証の一、二、第四一、第四二号証、第四三号証の一、二、第四四号証の一ないし二六、第四五号証の一、二、第四六号証の一ないし七を提出。

(二)  原告本人尋問の結果を援用。

(三)  乙第一ないし第一一号証の各一、二、第二三号証、第二六号証、第二七号証の一ないし四、第二八、第二九号証、第三二ないし第四三号証、第四六ないし第四八号証の各成立を認める(但し、第二三号証、第二六号証、第二七号証の一ないし三、第二八号証、第三二ないし第四三号証については、原本の存在ともに。)が、その余の乙号各証の成立はいずれも知らない。

二  被告

(一)  乙第一ないし第一一号証の各一、二、第一二ないし第二四号証、第二五号証の一ないし三、第二六号証、第二七号証の一ないし四、第二八ないし第四八号証を提出。

(二)  証人甲田嘉六、同江口育夫の各証言を援用。

(三)  甲第五号証の一、六、七、第一四号証の二、第一八号証の一、二、第一九号証、第二二号証の一ないし四、第二四号証の一ないし一〇、一二ないし三五、第三五号証の一、二、第三八号証の二ないし一三、第四〇号証の一、二の各成立を認め、その余の甲号各証の成立はいずれも知らない。

理由

一  原告は秩父市において納豆及びめん類の製造販売業を営むものであるが、被告に対し、昭和四八年分の所得税につき総所得金額を金一三五万円、所得税額を金四万八、八〇〇円、同四九年分の所得税につき総所得金額を金二一九万二、八二九円、所得税額を金一二万八、一〇〇円とする確定申告書をそれぞれ提出したところ、被告は、原告に対し裁決による一部取消前の本件各処分をしたこと、原告はこれらに対し異議申立をしたが棄却されたので、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、これに対し本件各処分の一部を取消し、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をしたが、これらの詳細は別表一、二記載のとおりであって、右裁決の結果が昭和五三年五月二六日原告に通知されたこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告が原告に対し本件各処分をするについては、推計による所得金額算定の方法によったので、先ずその必要性について判断する。

(一)1  原告が白色申告者であり、被告係官が、昭和五〇年一一月一四日から同五一年一月一三日までの間八回にわたり、昭和四八年分、同四九年分所得税調査のために原告方を訪れ、原告に対し質問するなどして調査を試みたが、その際、原告において民商会員の立会いを要求し、民商会員がテープレコーダーを持ち込んだことがあったこと、原告が多忙を理由として調査に応じなかったことがあったこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、証人甲田嘉六の証言、原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 原告については数年間所得税調査をせず、しかも事業規模からみて原告の確定申告額は過少に過ぎるとの疑いを抱いた被告は、係官甲田嘉六及び前原某をして、原告の本件係争各年分の所得税調査を担当させ、右係官は昭和五〇年一一月一四日午前九時半ころ原告方を訪れ、原告及び原告の養子である喜市に対し来訪の目的を告げて、原告に対して質問をした。原告は、これに対し取引先名を明らかにしたうえ、銀行取引はなく、仕入帳、売上帳等は記帳していないが、領収書は保存してある旨答えたが、それ以上の調査については、多忙を理由に応じなかった。そのため、右甲田らは、やむなく原告方を退去した。

(2) その後、右甲田は、電話で原告の都合を確認して面会を約し、昭和五〇年一二月五日調査のために原告方を訪れ、帳簿類の提示を求めた。ところが原告方には、民商会員約一〇名の者が集って調査の立会を要求し、喜市もテープレコーダーを持ち込み係官の発言内容を録音しようとした。甲田は、これを拒否し、録音の中止と民商会員に席を外すように要求したが、原告らはこれに応ぜず二時間位も押問答を重ねるに至ったため、結局、甲田は、調査を行うことができずに原告方を退去した。

(3) その後、甲田は、昭和五〇年末から同五一年初めにかけて五回にわたり、原告方を訪れて原告に対し調査に協力するよう求めたが、原告は、多忙を理由にこれに応じなかった。

(4) そこで、甲田は、昭和五一年一月一三日原告の都合を確認した上で調査のため原告方を訪れたが、この時も民商会員約一〇名の者が同席したため、同人らの立会いを非とする右係官とこれを是とする原告らの押問答に終始し、結局右係官は、調査を行うことができずに原告方を退去した。

(5) 以上のように、被告は、原告方の臨店調査において殆んど調査を行うことができず、そのため、原告の所得を実額で算出する資料を得ることができなかったので、原料仕入先等の反面調査をしたうえ、本件係争各年における原告の所得額を推計によって算出し、裁決による一部取消前の本件各処分をした。

以上の事実を認めることができる。右認定を動すに足りる証拠は存しない。

(二)  右認定事実によれば、被告は、原告が被告係官の本件係争各年における所得税の調査に協力せず、そのため原告の所得金額を実額で把握することができなかったというのであるから、本件において、被告が、前示各処分をするに際し、原告の所得額を推計の方法によって算出したことにつき、その必要性を肯認することができる。

もっとも、原告は、テープレコーダーによる録音及び民商会員の立会いは調査の妨げにはならないから、これを拒否した被告係官の措置が違法であったと主張する。しかし、所得税法第二三四条に規定する質問検査権は、税務職員による職権調査の一方法として、当該調査事項について納税者等に質問し、又は関連する物件の検査を行う権限を認めたものであって、テープレコーダーによる調査時における発言内容の録音や第三者の立会い等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衝量において相当な限度にとどまる限り、権限ある税務署員の合理的な選択に委ねられていると解すべきところ、本件の所得税調査において、被告係官に質問検査の必要性のあることは、右に判示したとおりであり、また、前示事実によると、テープレコーダーによる録音及び第三者の立会いの拒否は、所得調査の本質や原告の私的利益に照らし、相当な限度にとどまるものというべきであるから、これをもって、未だ係官の合理的な裁量の範囲内を逸脱したものということはできない。

してみると、右第三者が原告の依頼を受けたものであって、原告において録音及び第三者の立会いについての要求を容れられたならば、原告において調査に応じる意思があったこと、仮に原告の主張するとおりであったとしても、それは被告の本件推計による所得額の算出に違法を来すものではないから、原告の右主張は失当である。

三  そこで、被告の同業者率による所得額の算出方法の合理性について判断する。

(一)  原告の本件係争各年における事業所得金額の推計による算定方法は、調査によって判明した原告の原材料の仕入金額を基礎として、これに同業者の平均収入割合を乗じて総収入金額を算出し、更にこれに同業者の平均算出所得率を乗じて算出所得金額を推計する、いわゆる同業者率による方法であるが、推計による所得金額の算出は、所得金額を実額によって認定することができない場合に、これと一致する蓋然性のより高い方法によって算出した所得金額をもって実所得金額に代えようというものであるから、そのためには、当該納税者の状況に照らしてより合理的、妥当な方法が採用されなければならない。

(二)  そこで、これを本件についてみるに、めん部門において推計の基礎資料とされた同業者は僅かに三名であり、しかも、右各同業者の仕入金額率は、昭和四八年分には最も低い者が一八・〇三パーセント、最も高い者が三五・〇〇パーセントでその間に約二倍の開差が存し、昭和四九年分のそれは一九・七三パーセントと四三・四七パーセントで、二・二倍の開差が存在する。右の開差は、基礎資料とされた同業者の中にかなり営業条件を異にした者の存在を推認させるものである。このように同業者率による場合、少数の同業者を基礎資料とし、しかもその中に条件の異なった同業者を包含する場合には、右同業者の個性を払拭することができず、その結果その平均値は、個性ある同業者に影響され、合理的な結果を導き出すことは困難なことである。被告は、この点に関し、異例値を除外するために、基礎係数の算術平均の数値に、標準偏差の一・五倍の限界値を加算、減算して、上限値及び下限値を算出し、その範囲内の基礎係数のみに基づき、すなわち異例値を除外して平均値を求めたと主張するが、右の手法をもってしても、基礎資料を僅か三名の同業者とする本件のような場合には、異例値を除外できないことは明らかである。

また、被告は、原告の雇人費についても、同業者の雇人費が売上金額に対して占める割合の平均値を採用してこれを推計しているが、雇人費は、もともと収入金額に比例し難い要素、例えば家族労働力の多寡とその構成、従業員の雇用条件、熟練度など特殊な要素との関連を有するものであり、同業者率による場合であっても、これを納税者の個別的事情の反映する、いわゆる特別経費として、収入金額から一般経費を控除した残額から、改めて個別具体的にこれを算定して控除する取扱いが一般的であることに徴すると、家族労働力の多寡、その構成などの事情を顧慮することなく、単に同業者の雇人費が売上金額に占める割合をもって雇人費を推計によって算出する方法は、妥当なものと認めるには躊躇を感ぜざるを得ないのである。

これを要するに、被告の主張する同業者率による推計の方法によって原告の所得金額を算定する方法は、本件に関する限り、その合理性の点において、次に述べる資産増減法に、その席を譲らざるを得ないものといわなければならない。

三  そこで、資産負債増減法による原告の所得金額の算定について検討する。

(一)  純資産増加額

昭和四八年分 金二四〇万七、〇七〇円

同 四九年分 金五九六万〇、九五三円

いずれも成立に争いのない甲第一八号証の一、二、第三五号証の一、二、いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第二三号証、第三二ないし第四三号証、原告本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第一六号証、第三二号証の一、弁論の全趣旨によって成立を認める乙第四四号証を総合すると、原告及びその妻琴は、昭和四七年喜市と養子縁組をし、右喜市は同四八年一一月みどりと婚姻したものであるが、原告を除く右三名の者は原告方に同居し、いずれも原告の前示事業に従事しているものであって、右四名の者は、同四七年末から四九年末までの間、別表一九(一)記載のとおりの預金を有しており、その残高合計は、同四七年末は金一五五万一、〇七六円、同四八年末には金二八一万五、五五九円、同四九年末には金六二九万四、四七七円であったこと、原告は昭和四七年末から同四九年末には、別表二〇記載のとおりの減価償却資産を保有しており、その価格合計は、昭和四七年末には金五七一万九、六八六円、同四八年末には金五六二万一、二七三円、同四九年末には金九八六万六、二〇八円であったこと、原告の昭和四七年末から同四九年末までの借入金は、別表一九(三)記載のとおりであり、その残高合計は、昭和四七年末には金三七七万円、同四八年末には金二五二万九、〇〇〇円、同四九年末には金四三〇万一、〇〇〇円であったこと、従って、原告の純資産増加額は、昭和四八年には金二四〇万七、〇七〇円、同四九年には金五九六万〇、九五三円であったというべきである。

(二)  消費支出額

昭和四八年分 金一七四万九、一二四円

同 四九年分 金二五一万一、二一二円

成立に争いのない乙第四六号証によれば、一世帯当たりの全国平均消費支出は、昭和四八年は一か月金一一万二、一一六円、平均世帯人員は三・九一人であったこと、同四九年の一か月金一三万六、〇二四円、平均世帯人員は三・九〇人であったことを認めることができ、成立に争いのない乙第四七、第四八号証に、原告本人尋問の結果を総合すると、原告方の家族は、昭和四八年初めから同年一一月までは原告、琴、喜市、木村寅十郎、加藤シゲの五人であり、同年一二月以降は、これにみどりを加えた六人であることを認めることができる。

以上の事実に基づいて、被告主張の方法によって原告方の年間消費支出金額を推計すると、別表一八(三)(注)(1)、(2)記載のとおり、昭和四八年分は金一七四万九、一二四円、同四九年分は金二五一万一、二一二円となる。

(三)  利息収入

昭和四八年 金一万四、四六六円

同 四九年 金三〇万九、〇〇六円

前顕乙第二三号証、第三二、第三三号証、第四〇ないし第四二号証によれば、原告、喜市、みどりは、前記四(一)記載の預金から、昭和四八年には金一万四、四六六円、同四九年には金三〇万九、〇〇六円の利息収入を得たことを認めることができる。右利息収入は、非課税、いわゆる丸優の適用を受けている収入であることは右各証拠によって明らかであるから、原告の事業所得算出に当たっては、控除されなければならない。

(四)  事業専従者控除

昭和四八年 金三八万五、〇〇〇円

同 四九年 金五五万円

事業専従者控除額が昭和四八年には金三八万五、〇〇〇円、同四九年には金五五万円であることは、当事者間に争いがない。そして、前顕乙第四七、第四八号証によれば、右事業専従者控除金額は、前示喜市及びみどりの専従によるものであることを認めることができるから、これを純資産増加額から控除すべきものである。

(五)  以上の事実によれば、原告の事業所得金額は、昭和四八年分は金三七五万六、七二八円、同四九年分は金七六一万三、一五九円となる。その計算は別表一八(三)のとおりである。

原告は、喜市及びみどり名義の預金は原告の営業による所得ではなく、同人ら固有の財産であると主張する。

しかし、前示のとおり、喜市及びみどりは、本件係争各年中、事業専従者として専ら原告の事業に従事していたことは、前説示のとおりであるから、右期間中に増加した同人らの預金は、他に格別の反証も存しない本件においては、原告の事業によって得られた所得であると推認するのが相当である。また、原告は、原告の家族のうち一人は八〇才を越え、一人は八〇才弱の高令の老人であり、全国平均消費支出で原告の家族の消費支出を推計するのは合理的でないと主張するけれども、全国平均消費支出は高令の老人から乳幼児までを含めた全世帯の平均支出であって、原告の家族の中に二名の老人がいるために原告世帯の消費支出が全国平均のそれより低いとの事実を認めるに足りる証拠も存しないから、原告の右主張も採用しない。

四  ところで、原告は、本件係争各年分の所得金額は、昭和四八年分が金一一一万三、九一六円、同四九年分が金二〇八万八、一五八円と主張するので、この点について判断する。

(一)  原告は、売上金額を、昭和四八年は金一、一三八万一、二五一円、同四九年は金一、六五四万一、九二一円と主張し、その基礎資料として日別売上金額及び仕入経費金額表(甲第二号証、第二一号証)を提出しているが、原告本人尋問の結果によれば、右甲号各証は後日原告によって作成されたものであることを認めることができるところ、これには売上の内訳の記載もないばかりでなく、昭和四九年は閏年でもないのに甲第二一号証中には二月二九日金一三万二、五二三円の売上があった旨記載されているなど作為的な点も存し、更に前顕乙第二三号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第二四号証、第二五号証の一ないし三に照らすと、到底正確に原告の売上金額、経費が記載されているものとは思われない。

(二)  また、原告の主張する交通通信費、保険料、公租公課及び接待交際費のうちには資料の裏付けのないものが多く、甲第二六号証の三、原本の存在及び成立に争いのない乙第二六号証、原告本人尋問の結果によれば、原告のいう接待交際費の中にも原告が昭和四九年一一月一二日訴外宮下商店から購入した下着類の代金等の家事関連費も含まれている事実を認めることができる。

(三)  更に、原告は、自動車等の修理費として、昭和四八年分につき金三五万二、四九〇円、同四九年分につき金一一二万六、四五〇円の支出を主張し、その証拠として秩父郡横瀬村の山神産業こと黒沢利三作成の領収書(昭和四八年分については、甲第八号証の三、四、六、一一、一二の五通でその合計は金八万九、〇〇〇円、同四九年分については、甲第二八号証の二、三、八、一一、一三ないし一五、一八、二五ないし二七、三〇の一二通でその合計は金一八万〇、四二〇円)を提出している。しかし、原告は、本件係争各年の後記期間右黒沢利三を雇傭していたと供述している。更に、前顕甲第一六号証、第三二号証の一、弁論の全趣旨により成立を認める乙第三〇、第三一号証、原告本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第八号証の三、第二七号証の一、二、第二八号証の一、六、一六、一七、二二、二八、二九、三一ないし三三によれば、黒沢利三は、原告の養子喜市の実弟であって昭和四七年五月から同四九年七月まで秩父郡横瀬村に居住していたが、同四九年七月二一日入間郡坂戸町に転出したこと、同人は当時自動車修理工場、施設を保有しておらず、その事業に関する所得の申告もしていないこと、原告は同四七年六月から同四八年九月までは二台、同四八年九月以降は三台の営業車を有していたが、右営業車等の修理代金として秩父市所在の町田商会、永井モータース等に対し、昭和四八年には金四万六、六九〇円、同四九年には一〇回にわたり合計金二六万四、〇三〇円を支払っていることを認めることができるから、黒沢利三が原告から自動車修理代金の支払を受けた旨の前示甲号各証を直ちに措信することはできない。

(四)  更に、甲第二五号証の三、第二六号証の二、三、五、六、第二八号証の九、一一、一二、一七、三三、第二九号証の二六、第三七号証、第三九号証の一一、四七に貼付されている収入印紙は、昭和五〇年三月二八日に告示され同年四月一日から発行されたものであることは、成立に争いのない乙第二九号証によって明らかであるから、右甲号各証は作成日とされる日に作成されたものとは認められず、惹いてはその記載内容についても疑問を抱かざるを得ない。原告本人は、右甲号各証は後日交付を受けたものである旨供述するが、措信できない。

(五)  また、原告は、雇人費として、昭和四八年分金一二一万四、二〇五円、同四九年分金一六五万六、〇四〇円を支出したと主張し、これに付合する甲第四四号証の一には、黒沢利三に対し昭和四八年に金三三万円、同四九年に金五三万円、千島さまいに対し同四八、同四九年ともに金四万五、〇〇〇円、伊古田ハタに対し同四九年に金一六万八、〇〇〇円を支払った旨の記載があり、原告本人もこれと同旨の供述をしている。

しかし、右甲第四四号証の一は、原告の作成にかかるものであって、これを裏付けるに足りる資料はなく、却って、原本の存在及び成立に争いのない乙第二七号証の一、第二八号証によれば、原告は、不服審査の段階において、昭和四九年分の雇人費として黒沢利三に対し金五〇万円、伊古田ハタに対し金一〇万円、千島さまいに対し金二万円を支払った旨右の記載と異なった額を供述するなどその供述には一貫性が認められない。そればかりでなく、原告は、黒沢利三を昭和四八年には一月から三月まで、同年一一月から同四九年二月まで及び同年一一、一二月の間雇傭していた旨供述しながら、他方同人がその時期に自動車修理業等をしていたなどと矛盾した供述をしている。更に、原告本人の供述によると、伊古田ハタは、原告の妻の姉、千島さまいはその妹であって、いずれも原告方に逗留中患ったその母の看病に当っていた事実を認めることができるから、右同人らが原告の事業に従事したことのあったこと、仮に原告本人の供述するとおりであったとしても、同人らに支払った前示金員の全部を雇人費と認めることはできない。

(六)  以上に認定した各事実を総合すると、原告の主張する売上金額、必要経費は到底正確なものと認めることはできないから、そのいうところの本件係争各年における所得金額も、是認することができない。これを要するに、原告の全立証をもってしても、前示推計による原告の所得金額の算出が過大であるとして、その合理性を否定することはできないものといわなければならない。

六  所得税額、過少申告加算税額について

前記三において認定したとおり、原告の事業所得金額は、昭和四八年分が金三七五万六、七二八円、同四九年分が金七六一万三、一五九円というべきであるから、原告が納付すべき所得税額、過少申告加算税額は、右各所得金額を基礎として算出すべきものである。従って、これを下廻る所得金額である、昭和四八年分については金三五二万四、五六八円、同四九年分については金四四三万五、五五五円を基礎として算出された本件各処分の所得税額、過少申告加算税額は、いずれも現実の所得税額、過少申告加算税額を下廻るものであって、適法なものというべきである。

七  以上に判示したとおり、被告が原告に対してした本件各処分に違法な点は認められないから、これが存在を前提とする本件各処分の取消を求める原告の本訴請求は、いずれも失当として棄却すべきものである。よって、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長久保武 裁判官 大喜多啓光 裁判官 山田知司)

別表一 昭和四八年分処分経過表

〈省略〉

別表二 昭和四九年分処分経過表

〈省略〉

別表三 (一)

昭和四八年分事業所得金額一覧表

〈省略〉

別表三 (二)

昭和四九年分事業所得金額一覧表

〈省略〉

別表四 (一)

大豆仕入数量及び仕入金額表(昭和48年分)

〈省略〉

別表四 (二)

大豆仕入数量及び仕入金額表(昭和49年分)

〈省略〉

別表五 (一)

昭和48年分同業者率の計算(納豆部門)

(大豆仕入金額率)

1 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3 平均値の計算

〈省略〉

(注)1 算術平均による大豆仕入金額率(28.01%)の計算

〈省略〉

2 限界値(上限・下限)の計算

(1) 標準偏差(S=2.72)の計算

〈省略〉

(2) 限界値(4.08)の計算

2.72(標準偏差)×1.5(倍数)=4.08

(3) 上限(32.09%)の計算

28.01%(算術平均値)+4.08(限界値)=32.09%

(4) 下限(23.93%)の計算

28.01%(算出平均値)-4.08(限界値)=23.93%

(5) 平均値(29.90%)の計算

除外される基礎係数

下限(23.93%)を下廻る氏名Aの23.58%

(大豆仕入金額率の合計)(氏名Aの大豆仕入金額率)

〈省略〉

本件において、基礎係数、標準偏差及び限界値から、平均値を求める計算は、全て以上の方法によったものである。

別表五 (二)

昭和49年分同業者率の計算(納豆部門)

(大豆仕入金額率)

1 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3 平均値の計算

〈省略〉

別表六

完成品納豆の仕入明細表(昭和49年分)

〈省略〉

別表七

納豆一個当りの平均販売単価計算表(昭和49年分)

1 横川商店に対する納豆売上明細表

〈省略〉

2 平均販売単価(28.45円)の計算

〈省略〉

(注) 本店分とは、横川商店の本店へ販売したもの。

キンカ堂内店分とは、横川商店のキンカ堂秩父店の出店へ販売したものをいう。

別表八 (一)

小麦粉、そば粉の仕入数量及び仕入金額表(昭和48年分)

〈省略〉

別表八 (二)

小麦粉、そば粉の仕入数量及び仕入金額表(昭和49年分)

〈省略〉

別表九

昭和48年における小麦粉の先買金額の計算

〈省略〉

別表十 (一)

昭和48年の同業者の主要原材料(小麦粉、そば粉)

仕入金額(先買調整後)一覧表

(めん部門)

〈省略〉

別表十 (二)

昭和49年の同業者の主要原材料(小麦粉、そば粉)

仕入金額(先買金額調整後)一覧表

(めん部門)

〈省略〉

別表十一 (一)

昭和48年分同業者率の計算(めん部門)

(調整後の仕入金額率)

1. 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2. 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3. 平均値の計算

〈省略〉

別表十一 (二)

昭和49年分同業者率の計算(めん部門)

(調整後の仕入金額率)

1. 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2. 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3. 平均値の計算

〈省略〉

別表十二 (一)

昭和48年分同業者率の計算(納豆部門)

(算出所得率)

1. 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2. 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3. 平均値の計算

〈省略〉

別表十二 (二)

昭和49年分同業者率の計算(納豆部門)

(算出所得率)

1. 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2. 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3. 平均値の計算

〈省略〉

別表十三 (一)

昭和48年分同業者率の計算(めん部門)

(算出所得率)

1. 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2. 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3. 平均値の計算

〈省略〉

別表十三 (二)

昭和49年分同業者率の計算(めん部門)

(算出所得率)

1. 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2. 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3. 平均値の計算

〈省略〉

別表十四 (一)

昭和48年分同業者率の計算(納豆部門)

(雇入費率)

1. 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2. 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3. 平均値の計算

〈省略〉

別表十四 (二)

昭和49年分同業者率の計算(納豆部門)

(雇人費率)

1. 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

3. 平均値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3. 平均値の計算

〈省略〉

別表十五 (一)

昭和48年分同業者率の計算(めん部門)

(雇人費率)

1. 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2. 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3. 平均値の計算

〈省略〉

別表十五 (二)

昭和49年分同業者率の計算(めん部門)

(雇人費率)

1. 基礎計数及び標準偏差の計算

〈省略〉

2. 限界値の計算

(上限及び下限の計算)

〈省略〉

3. 平均値の計算

〈省略〉

別表十六 (一)

建物減価償却費の計算表(昭和48年分)

〈省略〉

別表十六 (二)

建物減価償却費の計算表(昭和49年分)

〈省略〉

別表十七 (一)

支払利息の内訳明細表(昭和48年分)

〈省略〉

別表十七 (二)

支払利息の内訳明細表(昭和49年分)

〈省略〉

別表十八

本件係争年分中における純資産増加額と所得金額計算表

(一) 純資産増加額計算表

〈省略〉

(二) 被告主張の所得金額計算表

〈省略〉

(注) 消費支出の計算は次のとおり

(1) 昭和48年分の消費支出 2,065,540円

(消費支出) (世帯人員) (原告世帯人員) (月数)

112,116÷3.91×6×12=2,065,540

(2) 昭和49年分の消費支出 2,511,212円

136,024÷3.90×6×12=2,511,212

(三) 当裁判所認定の所得金額計算表

〈省略〉

(注) 消費支出の計算は次のとおり

(1) 昭和48年分の消費支出 1.749,124円

(消費支出) (世帯人員) (原告世帯人員と月数)

112,116÷3.91×(5×11+6×1)=1.749,124円

(2) 昭和49年分の消費支出 2,511,212円

136,024÷3.90×6×12=2,511,212

別表十九

預金、借入金残高集計表

(一)預金

〈省略〉

注 ( )内は被告の主張する額

(三)借入金

〈省略〉

注 預金、借入金とも金融機関はいずれも埼玉信用組合秩父支店である。

(三)借入金

〈省略〉

別表二十 減価償却資産表

〈省略〉

(注) 1. 減価償却の方法はすべて定額法による。

2. 減価償却費の計算は右記のとおり行った。

(減価償却費の計算方法)

例 順号1 〈省略〉

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